Rail or Fly

レールに乗るのか、飛び降りるのか、迷っているきみに届けたい。

マジメな人のための、広告代理店での戦い方。

どうやら僕はとても広告マンには見えないらしい。

 

先日も、とあるイベントで知らない方と仕事の話になったので、「広告代理店でテレビの仕事をしています」と言ったところ、「てっきりメーカーか銀行にお勤めだと思っていました。失礼しました」と言われた、という出来事があったばかりだ。

 

メーカーか銀行、というのもこれまたバイアスのかかった物言いかもしれないが、要はマジメで実直そうに見える、ということなのだろう(メーカーや銀行と言っても当然その社風は千差万別であるが)。

 

また別の日には、とあるイカツイ先輩から「お前、童貞じゃねえのか?」と問い詰められ、「どどどど童貞ちゃうわ!」という模範的回答を繰り出す、という一幕も演じてしまった。どうやら僕は童貞らしい立ち居振る舞いを身に付けているらしい。

 

ここまで読めば、僕がどんな人間であるか、お会いしたことのない読者の方々にも少しは想像していただけるのではないだろうか?

 

そう、僕は「およそ広告代理店っぽくない広告代理店マン」なのである。

 

今日の記事は、そんな「イケてない広告マン」である僕から、僕と同類の「イケてない広告代理店志望者」に贈る、応援のメッセージである。

 

 

 

就職活動をしていた時から、「広告代理店」という言葉の持つイメージは嫌というほど意識させられていた。

 

チャラい、スマート、モテそう、ファッションセンスが良い、合コン大好き…みたいな。

 

実際、OB訪問をしていても、お話しする広告業界の社員さんはみんなかっこよくてモテそうな人たちばかりだった。

 

一度など、とある広告代理店のストラテジックプランナーの方がドレッドヘアに三つ編みという強烈ないでたちで現れ、あまつさえ「昨日クラブで口説いて抱いたオンナの話」を聞かされるという、これ以上ない機会に恵まれたこともある。

 

まさにこれがみなさんの持つ「広告代理店」のイメージではないだろうか?

 

さて、僕はと言えば、三つ編みドレッドという攻撃的なヘアスタイルにも打ち負けない精悍な顔面も持っていないし、学生然としたダサいスーツを着て、インドで買ったパチモンの500円のゴキブリみたいな靴を履いて歩きまわっているただの理系大学生である。正直、イケてない。件の「三つ編みドレッドヘア」氏に「お前さー、正直イケてないよね!ガハハ!」と一刀両断された程度にはイケてない。

 

(イケてない広告代理店マン、といえば、映画『陽だまりの彼女』の主人公・奥田浩介もそんな設定なのだが、いかんせん松潤がイケてない役をやったところでイケメンなのである。ちなみに映画自体はかなり良かった。原作も読んだけど、この作品においては映画の方が好きだな、と思った。)

 

 

 

それでも僕は広告代理店に行きたかった。理由は何度も書いているけど、このブログを書いているだけでは絶対に到達しえない人たちに、自分のメッセージを届かせる力を手に入れたかったからだ。

 

だが、広告代理店を志望する大学生のマジョリティは、いってみれば「チャラくて楽しいことが大好きなウェーイ大学生の権化(でも頭も良かったりする)」みたいなヤツらである。

 

(どうして「チャラくてウェーイな大学生」が広告代理店と相性が良いかについては、広告業界にはなぜ合コン好きな人が多いのか。 という記事で書いた。)

 

そんな神さまが二物も三物も与えた人類の夢みたいなヤツら相手に、僕のようなイケてないマジメ人間はどう戦えばよいのか?三つ編みドレッドヘアや七三ツーブロックをなぎ倒して内定を手にするにはどうすればよいか?

   

 

 

当然ながら、「こういうことをすれば内定がもらえる!」なんて虫の良い話は、世の中に転がっているわけもない。

 

だが、ヒントは存在する。

 

それは、「自分を肯定している人は受かる」ということだ。

 

「自分に自信がある人」と言い換えてもよいのだが、それだとどうしても、イケメンだったり面白いことが言えたりする人という、プラスのイメージが出てきてしまう。

 

別に自信がなくてもいいのだ。ただ、自分には自信がないということを、自分で受け入れていることが大切なのだ。(ちなみに、とある先輩と話していた時には、「自分に自信がないということにかけては自信があるヤツはイイ」という結論に至った。)

 

君がもし、どうしようもないカタブツで面白いことの一つも言えない人間だったとしたら。「いや~僕は昔からギャグの一つも言えなくて本当に悩んでるんです。広告マンの人の楽しませ方を教えてください!」とでも言えばいい。

 

君がもし、どうしようもなくダサい人間で、どうすればオシャレになれるのかまるでわからない人間なら。「やっぱり広告代理店の人ってオシャレな人が多いんですね。僕はどうしてもオシャレってもんがわからないんですよ。ちなみにそのスーツは何か思い入れがあって着てるんですか?」とでも聞けばいい。

 

マジメであること、イケメンでないこと、カッコ良くないこと…。そういったことは、決して悪いことではないのだ。

 

ただ、そういった一般的にはネガティブなイメージを持つ自分の要素を、「こういうのはダサい、見せたくない」と思って虚勢を張ってしまうのが、悪いことなのである。

 

 

 

一つ注意しないといけないのは、「自己肯定と自己正当化は違う」ということである。

 

自分のありのままを受け入れるのは自己肯定だが、そこから飛び出そうとしないのは自己正当化である。

 

「俺はブサイクだから、カッコ良くなる努力なんてしなくていいんだ」というのは単なる自己正当化だ。面接の場に限らず、相手にそんな態度で接されて、気分の良い人はいない。

 

自分のウィークポイントを認めること、それを素直にさらけ出すことは、とても大切だ。だが、それを相手に指摘された上で、開き直って自分自身に固執し続けるのは、とてもカッコ悪いことなのだ。学ぶべきものがあるのに周囲から学ばないヤツは、会社にはいらないだろう。

 

 

 

僕は、面接でクリエイティブな受け答えをして相手に気に入られることなんて絶対にできないと思っていた。だから本を読んで業界のことをできる限り理解して、勉強家であることを相手に知ってもらおうと思った。

 

(ちなみにクリエイティブな受け答えとして僕が今でも印象に残っているのはとある就活友達から聞いた話だ。その人は、個人面接でいきなり「今君の足元に地雷が埋まっています。どうしますか?」と振られ、すぐに「爆弾処理専門の友達を呼んできます!」と言って部屋を出、スーツを脱いで爆弾処理班の役を演じ、またスーツを着て戻ってきた、という話だった。こういうのが間髪入れずできる人は本当にすごいと思う。)

 

再三このブログでも紹介しているさとなおさんの『明日の広告』などはもちろん押さえつつ、他の広告志望の人間があまり読んでいないような広告関連の書籍も読んでみることで、自分の特徴である「勉強家であること」という要素がより際立ってくるはずだ。というわけで、いくつか紹介する。

 

メディア論―人間の拡張の諸相

メディア論―人間の拡張の諸相

 

 

今こそ読みたいマクルーハン (マイナビ新書)

今こそ読みたいマクルーハン (マイナビ新書)

 

 

マーシャル・マクルーハンはメディア論の大家であり、学問として広告やメディアの研究をしている人なら必ず知っている人物だ。ただ、彼の原著をそのまま読んでもさっぱりわけがわからないので、そこは良心的な解説書の助けを借りるとよい。難解な言葉の向こう側には僕たちをワクワクさせるような思想が潜んでいるということが、わかるはずだ。

 

影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか

影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか

 

 

広告と切っても切れない関係にある、心理学を扱った本。僕たちがどうしてある行動をとってしまうのか、人間の根本にある性質をベースに、快刀乱麻の解説を加えてくれる。ちなみに、漫画『ミナミの帝王』のとある巻はおそらくこの本をもとに書かれており、本書のとても良い解説書となること請け合いである。巻数を忘れたので、ちょっとここには紹介できず残念なのだが…。

 

広告ビジネス次の10年

広告ビジネス次の10年

 

 

デジタルとグローバル、という観点から、次世代の広告ビジネスを語りきった本。電通報でも紹介された、すべての広告人必読の書である。この時代に広告代理店を志す君は、もちろん業界の先行きが決して明るく開けたものであるとは思っていないだろう。そんな時代に、広告代理店の内部の人間たちはどうあるべきか?それについて考えるインスピレーションを与えてくれる本。

 

 

 

「広告業界」や「カッコいい面接官」に、自分を合わせる必要なんてない。ダサいヤツは、ダサい姿をそのまま見せればいいのだ。

 

まだ「ホントかなぁ…」なんて疑っている君に、僕がかの三つ編みドレッドヘア氏から頂戴したありがたい言葉を贈ろう。

 

「お前は確かに垢抜けないヤツだ。でも俺としては、お前にはそのまま、素直に自分を出してほしい。広告代理店に入りたいからと言って、無理に変わる必要はない」

 

この言葉があったから、僕は最終面接で「君は女の子にモテるの?」と聞かれた時に、胸を張って「モテません」と答えられたのだ。

 

僕が少しでも「広告業界っぽさ」を意識していたなら、こんなことは言えなかったに違いない。

 

今の自分をそのまま認めて、相対している人間より上とか下とか考えることなく、さらりと相手の眼前に提示する。

 

マジメな人は、自分をよく見せるのが下手だ。僕もそれは全然できない。それでいいんだ。

 

自分をよく見せるのが苦手なら、徹底的に自分を正直にさらけ出せばいい。その率直な姿勢は、自分をよく見せるのと同じかそれ以上の、強力な武器になってくれるはずだ。

 

 

 

世の中の「当たり前」とされていることを、一度自分の物差しで測り直してみることが大切だ。

 

それは就職活動についても言える。

 

「この業界はこんなヤツが受かる」なんて、どこの誰が決めたわけでもない「当たり前」を疑ってはじめて、自分がよりよく生きる道が開ける。

 

自分がその会社で働くことが誰にとってもプラスになると信じているなら、そんな「世の中の常識」など、蹴飛ばしてしまえばいい。

 

そして、これはよりよく生きる道が開けるとわかってくることだが、僕がさっき上で書いた「チャラくてウェーイな広告代理店志望者」にも、いろんなヤツがいる。

 

そこまでいけば、ステレオタイプを持って接するのではなく、自分の目でその人を見るという姿勢が、どれほど大きな学びをもたらしてくれるものであるか、心の底から実感できるだろう。