Rail or Fly

レールに乗るのか、飛び降りるのか、迷っているきみに届けたい。

僕が広告代理店に行きたかった理由。

社内メールで回っていた、2016卒の学生さんのためのインターンの案内を見て、もうそんな季節になったのかと思った。

 

2年前のこの時期、雨季に突入したばかりのムンバイで毎日ずぶぬれになりながら不動産を売り歩いていた僕は、自分が広告業界に入ることなど考えてもいなかった(不動産業界に入りたかったわけでもないが…)。

 

その頃は、広告といえば「なんかチャラそう」「マスメディアの力はどんどん弱まっているし、斜陽産業なんでしょ?」「でもなんとなくおもしろそう」「かっこいい」といった、ありがちなイメージを抱いていた。

 

その後8月に帰国し、どのように就活をしていたのかという話については、 大学を2年遅れた男の孤独な就活(広告志望な方にもそうでない方にも) で書いた通りだ。

 

ただ、僕がなぜ広告代理店に行きたかったかについてきちんと書いたことは、おそらくなかったのではないかと思う。

 

今日はそのことについて書いてみよう。

 

 

 

他の多くの学生がそうであるように、僕の志望動機も「たった一つだけ」ではなかった。

 

自分の会社のビジネスをとことん発展させていく「事業会社」ではなく、いろいろなクライアントを扱いヨノナカを俯瞰できる「機能的な仕事」であり、僕は俯瞰的な立ち位置が大好きだから―。

 

広告に携わっている人とは、なぜか話していてフィーリングが合うことが多かったから―。

 

広告の仕事では「人はなぜこのような行動をするのか?」といったことを常に考え続けるわけで、僕は対象が何であれそういった行動原理を考えるのが大好きだから―。

 

などなど、数え出すときりがない。

 

ただ、一つだけ、一番大切な理由を挙げろと言われたら、決まっている。

 

「自分の届けたいメッセージを、届けたい人に届ける術を身に付けたかったから」だ。

 

これは、広告代理店志望者の中では、割と珍しい志望動機だと思う。

 

 

 

広告代理店は、長らく「世の中」を相手にしたビジネスを行ってきた。それは、マスメディアが全国に情報をあまねく行き渡らせていた時代とリンクする。

 

「世の中を楽しくさせたいから」「自分の好きなものを世に広めたいから」「広告で世界を変えたいから」広告代理店志望者にこういった志望動機を語る人が多いのは、そんな時代があったからだ。

 

そういう意味で、僕の「届けたい人に届かせたいから」というのは、やや異質な志望動機ではある。どちらかといえば、検索エンジンを経由して興味を持ってくれた人だけが見てくれるインターネットや、読者層が非常に限定されておりそれゆえに熱烈なファンの多い雑誌のようなメディアの世界観に近いように思う。

 

それでも広告代理店に行きたかったのは、「届けたい人に届かせる過程では、幅広く知ってもらうことが必要不可欠だから」と考えているからである。

 

僕は、自分のメッセージが多くの人に受け入れられるものだとは思っていない。でも、仮に地球上のすべての人が僕のブログを知ってくれたなら、その中に必ず、僕の文章を読んでちょっとは気が楽になる人がいるはずなのだ。

 

(その意味では、そのうち英語で文章を書く必要があるのだろうなぁ、と思っている。)

 

 

 

余談ではあるが、「広く知ってさえもらえたら、必ず救われる人がいる」というのは、傲慢だと思われるかもしれない。

 

だが、人が納得のいく人生を送るためには、自分のやっていることの価値を信じてあげなきゃいけない。信じられる何かを、見つけなきゃいけない。

 

幸い、僕はブログを通して、自分の書いているものが誰かにとって必要とされているということを、徐々に信じられるようになってきた。今働きつつ書き続けていられるのも、自分のやっていることは誰かのためになっていると、信じているからだ。

 

自分のやっていることを知ってもらえたら、もっと楽に生きられるはずの人たちに、まだ知らせることができていないこと―。そういった機会損失をなくしたいから、僕は広告代理店に行きたかったのだ。

 

 

 

さて、ESや面接では、当然、悩んだ。

 

「届けたい人に届ける」というのは、広告代理店のこれまでのビジネスの一番核心的な部分ではないからだ。

 

だからといって、「世の中」をどうこうしたいという気持ちは僕の中には微塵もなかった。そんな人間が、本気で世の中を変えたいと思っている人と同じことを語っても絶対に勝てない。

 

だから正直に話した。「広く知らしめることは目的ではなく、届けたい人に届けるための手段です。僕はその手段を学びたいのです」と。

 

僕にとってラッキーだったのは、今の時代が、たまたま広告代理店が「届けたい人に届ける」ということを意識し始めた時代だった、ということだった。

 

例えば、テレビの視聴率は、世帯視聴率さえ取れたらいいという時代や、年齢・性別といったデモグラフィックな指標でターゲットを大まかに区切る時代を経て、より具体的なイメージ(ペルソナ)を設定する時代になりつつある。

 

そういった業界の変化と、自分のやりたいことを重ね合わせられたことは、僕にとってとても幸運だったと思う。

 

かくして、僕は今の会社から内定をもらうことができたのだ。

 

 

 

もし僕のように、「世の中をどうこうしようと思う気持ちはまったく無いけれども、届けたい人にメッセージを届けたいんだ」という人がいたとしたら、広告代理店はあなたにとってぴったりな場所だと思う。

 

広告代理店は今、これまでの「メディアの中間卸売業者」的ビジネスからなんとか脱却しようともがいている。

 

最新のアドテクノロジーを学び、インターネット広告のスペシャリストになりたいというなら、IT系の企業を受けた方がよいだろう。そこは、代理店ではなかなか追いついていない部分でもある。

 

だが、広告代理店にはこれまで積み重ねてきた「マスメディア運用のノウハウ」が詰まっている。

 

本当に、あらゆるメディアを縦横無尽に駆使し、「届けたい人に届ける」ことを目的とするならば、その前段として「広く知らしめる」ことが必要となる。それを学ぶ場所として、広告代理店は非常に良いチョイスだと僕は思う。

 

この記事を読んで広告代理店を志望してくれる人が1人でもいればいいなぁと願って、今日は終わりにしよう。