「インターン(※)とアルバイト、どっちがいいんですか?」
時々、このような質問をされることがある。
この質問をする人は、基本的には、「お金を稼ぎたい」というより「(いろんな意味で)成長したい」と考えているはずだ。
(昔「成長したい」という言葉は早めにゴミ箱に捨てた方がいい、という記事を書いたけど、まあそれはそれとして。興味のある方は読んでみてください。)
そして、無意識のうちに「インターンの方が成長できるんじゃないか?」と考えている。
まあ、そう考えてしまうのもしかたがない。インターン斡旋業者などがそういうプロモーションをしているし、ベンチャー企業も「ありきたりなアルバイトよりも、うちでインターンして成長しようぜ!」というアツいメッセージをコテコテの特設ページで投げかけてきたりするからだ。
しかし本当は、やる前からインターンだアルバイトだなんて言ってもしかたがない。
なぜなら、インターンの場合有給、無給それぞれにメリットもデメリットもあるし、アルバイトからでも「自分が成長できるような」業務にたどりつくことは十分可能だと思うからだ。
※…この記事で用いる「インターン」という言葉は、ベンチャー企業が中心になって募集している数か月以上の長期のインターンのことを指し、就職活動の時期によく開催される1日〜数週間程度の短期のインターンは指さない。後者は僕が中学生の時にやらされた職業見学と同じようなものだから。
もくじ
1. インターンとアルバイトの違い
2. 有給インターンと無給インターンの違い
3. アルバイトはつまらない仕事か?
4. とりあえず、やってみれば?
1、インターンとアルバイトの違い
そもそもこの2つを分けることは非常に難しい。
タテマエ的には、インターンが任される仕事というのは「正社員がやっている業務そのもの」であり、アルバイトが任される仕事というのは、「正社員がやっている業務のうち、未経験者でも比較的簡単に結果が出せるもの(単純作業、ルーチン化できる仕事)」である、と言える。
図にするとこんな感じ。
つまり、インターンのやる仕事にアルバイトのやる仕事も含まれている。
インターンが「成長できる」と思われるのは、この図でいう右側の部分、創造的な業務を任せてもらえるからだろう。
しかし、正社員の仕事にもルーチンワークが多いような会社の場合は、そこでインターンしても、こんなのアルバイトがやるもんだろうというようなルーチンワークが多くなるだろう。会社によって、同じ言葉が指すものは異なるということだ。
だから、インターンとアルバイトをきちっとわけることはほぼ不可能なのだ。
上でさらっと、「インターンが『成長できる』と思われるのは創造的な業務を任せてもらえるからだ」と書いた。
本当に、創造的な業務を任せてもらえるのだろうか?
これについては、有給インターンと無給インターンで答えが変わってくる。
2、有給インターンと無給インターンの違い
そもそも、有給インターンの場合、どうしてインターン(=経験のない学生が、正社員と同じ仕事をすること)に給料を出せるのか?と、経営者の目線で考えてみるべきだ。
未経験の学生が正社員と同じ仕事をしても、そう簡単に結果を出せはしない。特に、創造的な仕事というのは、結果が出しにくい。
もしかすると、その会社の経営者は、インターンをある意味社会奉仕活動の一環と捉え、たとえ学生が給料分の働きをすることができず会社が損をすることになっても、学生に社会勉強をさせてあげようと考えているのかもしれない(そういった経営者の方もいなくはないと思う)。
しかし、世の中そんな聖人君子な方ばかりではないし、会社は慈善事業じゃない。
とすると、有給インターンというのは、「未経験者がやっても会社に確実にメリットがあるような仕事をやらせている」と考えられる。
これは何かと言えば、極端に言えば、アルバイトだ。
もちろん、インターンという名目である以上、単なるアルバイトよりは定型的でない仕事を任せてもらえる可能性は高い。
しかし、会社が未経験者にお金を払う理由に合理的な説明をつけようとすれば、「アルバイト的な仕事をさせているから」以外に、考えられない。
実際、僕がインドでインターンをしていた時は、現地人の給料と同じ程度の有給インターンだったが、最初のうちは、メールの翻訳、電話営業、顧客の現地案内など、アルバイト的な仕事にカテゴライズされるものが多かった。
結論として、有給インターンでは「よりアルバイトに近い、ルーチン的な仕事が多くなる」ということが予想される。そこから創造的な仕事につなげていけるかは、やる人次第だ。
この「創造的な仕事にどうつなげていくのか?」については、アルバイトと同じように考えるとよいので、下の「3、アルバイトはつまらない仕事か?」を参照してください。
一方、無給インターンというのは、お金が出ないからこそ、定型化されていないことに挑戦させてもらえることが多い(インターンの名目で無給でアルバイト的業務をさせるブラック企業についてはおのおの注意されたし)。
僕はとあるIT企業で無給のインターンをしたことがある。その時は新しい事業を立ち上げたいと考えているということで、これまで社内でやったことのない取り組みをやらせていただいた。
結果は全然ダメだったが、自社が売るべき商品やサービスとは何か、どんな人にどんなメリットを提供するのか、どうやって売るのか、商品名は、ウェブサイトは、プレスリリースは…と、初めてのことをたくさん経験させてもらった。
飛び込み営業をした先で商品が売れた時は、ユーザーとして想定していたような方ではない方が購入してくれるという、新しい発見もあった。
無給インターンでは、会社側から見て給料をドブに捨てるリスクが無いため、新しいことをやらせてもらえる可能性が高い。
単純に、「お金がもらえるか、そうでないか」だけでなく、経営者の側から考えてみて、「お金をもらえるということはこんな仕事を、お金をもらえないということはこんな仕事を任されるんじゃないか」ということも、考えてみるべきだ。
総じて、学生は創造的な仕事とやらに夢を見すぎだ。正社員の日々の仕事にもルーチンワークはたくさん入りこんでいる。そのつまらない部分だけを抜いて、お金ももらって…というのは、いささか虫が良すぎるんじゃないだろうか?
創造的な仕事、というのは、いわば日常に対しての非日常、ハレのイベントのようなもの。大好きなUKバンドの日本初公演を観に行くとか、付き合ってる女の子にプロポーズするとか、念願だった南海の孤島でのダイビングとか…。しかしそういったハレのイベントを楽しむには、睡眠をとるとか、歯を磨くとかいった日常的な行為が欠かせない。
例えば僕がインターンでやったような新商品の開発が成功していたら、毎月在庫を管理し、エクセルに売上を打ち込み…といった、ルーチンワークが必ず生じていたはずだ。
創造的な仕事には、影のようにルーチンワークが付随するということを、忘れてはいけない。
3、アルバイトはつまらない仕事か?
インターンについての話をしてきたが、今度はアルバイトについて。
「やっぱりコモディティ()なアルバイトよりも、成長できるインターンだよね」なんていう話を聞くことがあるけれど、その人はアルバイトをマジメにやったことがないだけだ。
どんなありふれたアルバイトでも、最初に任されるルーチンワークをきちんとこなしていけば、そのうち絶対におもしろい仕事が舞い込んでくるようになる。
僕は大学生の典型的なアルバイトの一つである、居酒屋チェーンのホールスタッフのアルバイトを2年間やっていた。
最初の半年くらいは、ドリンクを作ったり、料理を運んだり、お客さんの注文を聞いたり…と一通りのこと(ルーチンワーク)をやっていたが、そのうち「飲み放題付きのコース料理の営業」をやらせてもらえるようになった。
誰しもグループで飲み屋に入ると、「飲み放題はいかがされますか?」と店員に言われることがあるだろう。あれに「お料理はコース料理になるのですが…」と付け足したものが、「飲み放題付きのコース料理の営業」のこと。
僕は「宴会部長」と言われ(「飲み放題付きのコース料理」をうちの店では「宴会」と称していたため)、どんなに飲み放題を頼まなさそうなお客さんが来ても、ひたすらこの営業をしていた。
なぜこのような営業をするのかと言えば、店側・お客さん側双方にメリットがあるためだ。
数十人規模で来店されるお客さんが、決まったコースを頼むか、それともばらばらに自由に注文するかというのは、店のパフォーマンスにかなり影響する。率直に言えば、飲み放題付きコース料理の方が、格段に店にかかる負荷が下がるのだ。(もちろんお客さんにもメリットはある。決まった予算であること、テンポよく料理が運ばれてくること、飲み放題であることなどだ。)
また、統計的には、飲み放題付きのコース料理を頼むお客さんの客単価は高くなる、ということを店長から聞いた。
したがってこの営業は、その日の店のパフォーマンスを左右する、重要な仕事だった。しかも、お客さんはいろいろな方が来られるので、その都度どんなふうに営業するかも異なる。
一回一回が、創造的な仕事だった。
そこで役に立ったのが、「ルーチンワーク時代」に身に付いた、コース料理の内容や、キッチンの事情だった。
例えば、コース料理では唐揚げは出てこないが、どうしても飲み放題で唐揚げを食べたい方が来られた場合、キッチンに問い合わせ、何か別のコース料理の代わりに、出してもらうことができる。
こういうことは、キッチンやホールの基本的な仕事を細かく理解していなければ、提案できない。
つまり、ルーチンワークを一生懸命やっていれば、いつかおもしろい仕事が舞い込む土台になってくれるのだ。
また、トーク営業のやり方やコツについて、スタッフのみんなに伝えるのも仕事だった。店内のミーティングでプレゼンをしたこともある。僕の作ったプレゼンの書類を他店の店長が気に入って持って帰ってくれたということもあった。
ちなみに、僕が宴会部長をしていた頃の店の売り上げは、不景気で同チェーンの他の店舗の売り上げが軒並み下がる中、前年比103%程度だったとのことだ。また、宴会部長としてチェーンの本部からお褒めの表彰状をもらったこともある。
これらは「インターン」と言われても別に違和感のない仕事だが、表面的には僕は「アルバイト」だった。
今さらながら、僕にこの仕事を任せてくれた店長やスタッフのみんなにはとても感謝している。
アルバイトが「つまらない」と言うのは、簡単だ。
本当にデキるヤツは、居酒屋チェーンのアルバイトなんてしない。自分で投資をするとか、事業を始めるとか、そういう選択をする。僕の周りにも、そういう「スーパー学生」はいる。
だが、インターンとアルバイトのどっちをやってみようか、と迷っている時点で、あなたはスーパー学生ではない(もちろん僕も、そうではない)。
スーパー学生でなくても、おもしろい仕事をすることはできる。
それには、ルーチンワークをしっかりこなし、創造的な仕事が舞い込んできた時に、結果を出すこと(2で触れた、インターンの中でもルーチンワークが多いのではないかと思われる有給インターンでも、これは同じ)。
「アルバイトはつまらなくなんてないぜ!」と、きみが証明してやればいい。
4、とりあえず、やってみれば?
人間は、何かに取り組む前に、何が得られるかを知ることはできない。
それでいて、何に取り組むか、決定しなければならない。
就職活動でも直面する、大いなる矛盾だ。
僕はこのブログで、考える前にやってみろということを何度も書いてきた。
やってから、そのことを正解にする。それが僕の生き方だ。
やる前にあーだこーだと言う前に、インターンの方が成長できるとかなんとか言う前に、とにかく手を出して、自分の言葉で語れるようになったらいいと思う。
※2年以上前に書いたこちらの記事も、よかったらどうぞ。