Rail or Fly

レールに乗るのか、飛び降りるのか、迷っているきみに届けたい。

The Stone Roses - The Stone Roses / 水のような、極上の透明感。

最初にこのアルバムを聴いた時、あまりにもすっと聴けて「あれ?もう終わったのか」と拍子抜けしてしまった。

それほどまでに、このThe Stone Rosesのセルフタイトルアルバムは、聴き手に違和感を与えずスムーズに流れてゆく。

かといって印象に残らないかといえば、そんなことはない。非常にキャッチーなメロディのオンパレードが次から次へと出てきて、思わずリズムを刻んでしまう。

「水のようなサウンド」という言葉が、これほど似合う作品も少ないんじゃないだろうか。

洋楽をまったく聴いたことがない、という人にも、自信を持って薦められる名盤。めちゃくちゃ聴きやすい。最後に書くけど、邦楽でもスピッツとか好きな人は、好きなんじゃないかな。



※1991年に再発売されたUK版

#1 I Wanna Be Adored

#2 She Bangs the Drums

#3 Waterfall

#4 Don't Stop

#5 Bye Bye Badman

#6 Elephant Stone

#7 Elizabeth My Dear

#8 (Song for My) Sugar Spun Sister

#9 Made of Stone

#10 Shoot You Down

#11 This Is the One

#12 I Am the Resurrection

#13 Fools Gold



このThe Stone Rosesというバンドは、マッドチェスター・ムーブメントの代表的なバンドとされる。

マッドチェスター (Madchester) とは、音楽のジャンルのひとつ。イギリスの都市の名前であるマンチェスター(Manchester)と「狂った」という意味のマッド(Mad)を合わせて作られた造語。1980

年代後半から1990年前後にかけてマンチェスターを中心に起こったムーブメントに由来する。

マンチェスター・サウンドとも呼ばれ、ダンサブルなビートとドラッグ文化を反映したサイケデリックなサウンドが特徴とされるロックのスタイルを指す。

(Wikipedia)

ドラッグと結びついた音楽というと、1960年代後半のヒッピー文化から派生したサイケデリック・ロックを思い出すが(The Doors、The Beatles、Jimi Hendrix Experienceとか)、クラブ文化と相まって「共同体意識のもと、アーティストと観衆の上下関係や垣根を取り払うことを目指し」たのが、マッドチェスターの特徴だろうか。(""で囲んだ部分はウィキぺディアの引用)

音楽的な違いを無理やり書くとすれば、「透明感」かなと思う。

いわゆるヒッピー文化が産んだサイケデリック・ロックは、身体の芯まで響いてくる官能的なギターが特徴だ(Jimi Hendrix Experience"Are You Experienced?"やThe Doors"Break On Through"など)。

一方、マッドチェスターを代表するバンドとしてよく挙げられるNew OrderやHappy Mondaysを聴いてみると、そこまで官能的なものは感じられない(それぞれ代表曲は"Blue Monday"、"Step On"など)。代わりに、どことなくカワイイ感じがする。エロや暴力といった人間の欲望に迫る音とは真逆の、透明感のある音だと思う。

'The Stone Roses'は、マッドチェスター・ムーブメントの音楽の中でも、その透明感を最大限に感じられる作品だ。



なお、#6"Elephant Stone"、#13"Fools Gold"は、最初に発売されたUK版には入っていない。したがって、このアルバムを評価する上では、この2曲は除外して考えるべきかもしれない。

とはいえ、僕は"Elephant Stone"大好きだから、この記事の最後の方にちょろっとコメントしておく。



このアルバムの核となる曲はどれか、と言われると大変難しい。すべて同じようなテンションで、水が流れるごとく演奏されるからだ。

しかし、#3"Waterfall"については、彼らの音楽性を知る上で一つ重要な曲だと思う。

このアルバム独特の「水のようなサウンド」がなだれを打って耳に浸透してくる、日本語で「滝、瀑布」といった意味を持つ曲名の通りの名曲だ。

実はThe Stone Rosesには前身となるバンドがいくつかあるのだが、その1つにWaterfront(日本語で「水辺」)というバンドがある。単語の音も意味も、"waterfall"という曲名と似ていると思わないだろうか?

英語版Wikipediaには、Waterfrontというバンドは、1970年代のスコットランドのバンドOrange Juiceに影響されていた、と書かれている。で、Orange Juiceの曲を聴くと、なるほど「水」のような音はここから来たのか、と思わせるような爽やかな音が耳に入ってくる。



他にもあくまでWikipediaによる情報だが、The Stone Rosesが影響を受けたバンドとしては、 The Beatles、The Rolling Stones、The Beach Boys、The Byrds、Johnny Marr、Jimi Hendrix、Led Zeppelin、The Jesus and Mary Chain、Sonic Youth、Sex Pistols、The Clashが挙げられている。目につくのは、やはり60年代後半のサイケデリック・ロック勢、それから70年代ハード・ロック勢、パンク・ロック勢、80年代以降のオルタナティヴ・ロック勢。しかし、マッドチェスター・ムーブメントに「直結」しているアーティストは、The SmithsのJohnny Marrくらいしか見当たらない。

The Smithsといえば、1986年に出した3rdアルバム'The Queen Is Dead'が激賞された、The Stone Rosesと同じくイングランド・マンチェスター出身のロックバンドである。この3rd、70年代から80年代におけるイギリスの閉塞感がよくわかるアルバムタイトルになっている。

#7"Elizabeth My Dear"は、そんな'The Queen Is Dead'に引っかけたような曲名となっている(89年当時、エリザベス2世が王位にあり、14年1月現在も継続中)。時系列的にも'The Stone Roses'が出されたのが1989年だから、The Smithsへのアンサーソングとして考えることは可能だ。まあ、音楽的にはSimon & Garfunkelのカバーによってよく知られたイングランド民謡の"Scarborough Fair"をほぼ丸ごと取ってきてるんだけど。

"Elizabeth My Dear"は短い曲ながら歌詞が興味深くて、ある人間が「彼女が王座を失うまでは休めない、これが(お前の)一巻の終わりだ、親愛なるエリザベスよ」と、おどろおどろしい言葉を吐いている。これもやはり、アルバム"The Queen Is Dead"と同じく、イギリスの暗黒期を象徴している作品と言えるだろう。

"Elizabeth My Dear"は、明るくて透明感あふれる'The Stone Roses'の中にあっては("Scarborough Fair"を引っ張ってきてることからもわかるように)暗くて異質な曲だ。アルバムで、他に大々的に短調が使われている曲は、#9"Made Of Stone"のイントロ〜Aメロくらいしかない。

ちなみに'The Queen Is Dead'のタイトル曲"The Queen Is Dead"はギターの疾走感あふれる名曲で、音楽的には陰鬱さは感じられない曲だ。



この「透明感」に少しだけ入り混じる「陰鬱さ」は、何を表しているのだろうか?

これは完全に僕の推測だが、マッドチェスターの「何もかも忘れて踊り続けよう」というメッセージが「忘却やエクスタシー=透明感」に表れているとするなら、そんな「エクスタシー」の途切れた、ふと我にかえった時の自分への失望を、表現しているのかもしれない。

サウンド的には、"The Stone Roses"は明るくて希望に満ちているように思えるけれども、歌詞を読めばそんなことはない。

#5"Bye Bye Badman"は、「俺をずぶぬれにしてくれ」だとか、「俺はあいつに石を投げてんだ」とか、やり場のないフラストレーションを強く感じる曲だ。

"Waterfall"の"Tell me how, how does it feel?"というところなんかは、Bob Dylanの"Like A Rolling Stone"を思わせる。あれも、曲調は総じて明るいのに、歌詞は没落した女の子のみじめな人生を描いた、切ない曲だった。

マッドチェスターという、我を忘れさせてくれる騒ぎの中で、ふと自分を顧みた時に抱いてしまう不安や怒り。明るく透明感あふれる名盤とされている本作だが、実はテーマはそういった暗い部分にあるのかもしれない。

最初の版ではラスト曲とされていた#12"I Am the Resurrection"によって、彼らの2ndアルバム'Second Coming'の存在がほのめかされ、本作は終わる。resurrectionは「よみがえり」という意味、(the) Second Comingは「キリストの再臨」である。

2ndアルバムはかなり音楽性が変わっており、透明感やポップネスというものを期待して聴くと、裏切られるかもしれない。ハードロックの耽美さや力強さをびんびん感じる作品になっている。



なお、#6"Elephant Stone"について少しコメントする。

これを最初に聴いた時、「あ、スピッツだ」と思った。ギターのリフが、スピッツの初期の迷曲"おっぱい"と酷似しているし、サウンドも非常によく似ている。

時系列的には、The Stone Rosesのシングル'Elephant Stone'は1988年に、スピッツの"おっぱい"が入ったインディーズの作品'ヒバリのこころ'は1990年に発売されている。したがって、スピッツがThe Stone Rosesに影響を受けた、ということも十分考えられる。

スピッツ好きな人は、'The Stone Roses'を聴いてみると好きになれるかもしれない。と、スピッツ大好きな僕からのおススメです。



THE STONE ROSES

THE STONE ROSES