Rail or Fly

レールに乗るのか、飛び降りるのか、迷っているきみに届けたい。

Please Mr.Lostman - the pillows / いつか忘れ去られる運命であっても歌い続ける。1人でも、聴いてくれる人がいる限り。

ブログで何かを発信するという行為は、そう楽なものではない。

 

特に僕にとっては、ブログは無味乾燥な情報を掲載する場所ではなく、自分のメッセージを書きつける場所であるから、なおさらだ。

 

一生懸命書いても、誰にも届かないのではないか…。届いたとしても、嫌われてしまうのではないか…。

 

そんな怖れを抱きながら文章を書いている僕を、これまでずっと応援してくれた音楽がある。

 

the pillowsの5thアルバム、'Please Mr.Lostman'。

 

売れること、オリジナリティを出すことを目指していたそれまでの彼らが、「いつか忘れ去られてしまうとしても、1人でも聴いてくれる人がいる限り、俺たちは俺たちの音楽をやり続けるんだ」と宣言したアルバム。

 

この作品はこれからもずっと、僕のように世界のどこかで1人発信を続ける人を、勇気付ける音楽であり続けるだろう。

 

 

 

'Please Mr.Lostman'というタイトルは、もともとはMarvelettesというアメリカのグループの"Please Mr.Postman"という曲をもじったもの。この曲については、特にThe Beatles、あるいはCarpentersによるカバーが有名だと思われる。

 

カバーにあたり、The Beatlesは歌詞を書き換えている。どちらも郵便屋さんに恋人からの手紙を届けてほしいと願う曲であるのは変わらないが、The Beatlesのバージョンでは主人公は男の子になっており、恋人の女の子からの手紙を待っているという設定になっている。もともとは、Marvelettesが女性グループであったため、主人公は女の子という設定だった。

 

とにかく、恋人からのメッセージが届くのを待っている曲が元ネタだ、ということ、それから Postman を Lostman に書き換えていること、この2つを踏まえて、僕はこのアルバムのメッセージを以下のように解釈する。

 

「いつか忘れ去られてしまうとしても、1人でも聴いてくれる人がいる限り、俺たちは俺たちの音楽をやり続けるんだ」

 

それは、いつか忘れられる存在(=Lostman)になったとしても、たった1人の人にメッセージを届け続けるということである。

 

それでは、彼らのメッセージの詰まった楽曲を聴いていこう。

 

 

 

 

 

#1 STALKER

 

#2 Trip Dancer

 

#3 Moon is mine

 

#4 Ice Pick

 

#5 彼女は今日、

 

#6 ストレンジカメレオン -ORIGINAL STORY- 

 

#7 Swanky Street

 

#8 Suicide Diving

 

#9 Girls Don't Cry

 

#10 Please Mr.Lostman

 

 

 

 

 

#1"STALKER"は重いベース音で始まるのが特徴的。しかし、このグランジっぽいサウンドは、むしろアルバム'Please Mr.Lostman'の中では例外的なものである。

 

the pillowsがインタビューなどでも答えているように(http://www.excite.co.jp/music/close_up/interview/0705_pillows/

、このアルバムは、音楽的にはThe SmithsやThe Cure、The Stone Rosesなど、80年代から90年代初頭にかけての、爽やかなギターの効いたイギリスのロックを参照している。

 

したがって、"STALKER"だけを聴いて「そうか、これまでやってきた音楽との決別って、オシャレで爽やかな感じの音楽を脱出してゴリゴリした音のロックをやるってことだったのか!」と考えるのは早計である。

 

彼らのメッセージは、サウンド面ではないところにある、ということだ。

 

  

 

#2"Trip Dancer"は名前からしてもろにマッドチェスターっぽい(トリップして踊るのがマッドチェスターという音楽だから)、サウンドもThe Stone Rosesの1stのようなみずみずしさにあふれた名曲。

 

歩み寄るべきだなんて思わないだろう?

 

探してる物は僕らの中で騒いでる

 

このアルバムが出る1年ほど前、まだ自分たちの音楽を模索していた頃の曲"ガールフレンド"では「わざと嫌ってる流行の歌を/口ずさむ君とケンカして」と歌っていたのが、「(流行に)歩み寄る必要はない、探しているものは俺たちの中にある」と宣言している。

 

#1で「このアルバムのメッセージは、重厚なロックサウンドの部分にあるのではない」と書いた。むしろ、この"Trip Dancer"のように、爽やかで気持ちの良い素直な音作りこそが、サウンド面におけるこのアルバムのメッセージであるように思う。

 

おそらくだが、彼らは「オリジナリティ」という呪縛から逃れたのだ。

 

それまで追求してきた、凝ったコード進行やロック以外の音楽ジャンルから借りてきた音楽的知識を引き出しとして持ちつつ、自分たちが気持ちいいと思える音楽を思いっきりやろう、そういう決心ができたのだ。

 

その結果、悪く言えばありきたりなサウンドに陥ってしまうかもしれない。誰かのコピーに堕してしまうかもしれない。オリジナリティを発揮できず、「時代に忘れ去られて」しまうかもしれない。

 

でも、それでもいいんだ。それが俺たちのやりたい音楽だから。

 

"Trip Dancer"で見せるthe pillowsの清々しいまでの爽やかなサウンドは、その開き直りを象徴しているかのようだ。

 

 

 

#3"Moon is mine"は、第1期や第2期を彷彿とさせるかわいらしい曲(ちなみに'Please Mr.Lostman'以降は第3期とされる)。

 

こんな感じに、月とか星とかを臆面もなく出してくるのがthe pillowsの「君と僕」の世界観。("キミと僕とお月様"とか"僕らのハレー彗星"とか)

 

コードも割と繊細な感じなのに、リードギターはゴリゴリしてるのがおもしろい。特に間奏部分は本当に「歌って」いるようで、ボーカルとリードギターでツインボーカルのような味を醸し出している。

 

#4"Ice Pick"はかっこいいドラムの連打から入る、憂いを帯びた雰囲気の曲。

 

AメロからBメロにかけては、マイナーコードを一つも使わないかなりロックなコード進行で、歌詞も「理由なんて知らないよ教えてよ/苛ついて絡まって/ほどけないメロディーは無力で/ムキになっても笑われるさ」「二度と本当の顔は誰にも見せたりしないぜ」などと、かなりニヒルな感じだ。

 

しかしサビにむかう中で、ちらりちらりと切ないマイナーコードが顔をのぞかせる。それに伴って、メロディも叙情的なものに変わる。

 

「アイスピック」というモチーフは、どちらかというと冷たい、AメロやBメロのニヒルな感じの象徴なのかと思いきや、実はそのニヒルな「プラスチックの涙」を砕くものだったのだ。

 

 

 

こんなふうに、コードやメロディという「音」の部分と、歌詞という「言葉」の部分とは、たいていの場合連動している。

 

より詳細に言えば、僕はロックミュージックの要素として「メロディ」「コード」「歌詞」「サウンド」「リズム」があり、それぞれが関連しあって曲が完成していると思っている。

 

楽器単位で見ると、ボーカルは「歌詞」「メロディ」を、(リード)ギターは「メロディ」「コード」「サウンド」を、ベースは「コード」「メロディ」「リズム」を、ドラムスは「リズム」「サウンド」を、それぞれ担当している(ギターソロ、ベースソロも僕はメロディだと思うので)。

 

どれか一つだけ注目して音楽を聴くよりも、複雑に関連しあっている全体を丸ごと聴いて、「あれとこれはこう関わっているのかな…」と考えるような音楽の聴き方が、僕は好きだ。

 

もちろん、音楽の聴き方に関して「かくあるべし」なんてものはない。一人ひとりが好きなように聴いて好きなように感動すればいいのだ。

 

でも、せっかく音楽を聴くのであれば、構成要素のどれか一つだけではなく、いろいろな部分に目を向けてみて味わってみるというのも、ありだと思う。

 

自分の音楽の聴き方については、またどこかの記事でまとめたい。

 

 

 

#5"彼女は今日、"は、句読点の「、」が付いているのが特徴的な曲だ。モーニング娘。みたいなものだろうか。

 

それにしても、「彼女は今日、」と書けば、普通は「レストランに行った」とか「プールで泳いだ」とか、とりあえず「彼女が主人公の物語」に続くのかな、と思うのだけど、ここでは「彼女は今日、僕のそばにいたんだ」という意味でしかない。

 

山中さわおの書く歌詞はたいてい男がヘタレで女々しくて、まあそれがとっても素敵なんだけど、本当にもうちょっとがんばれよ!と思ってしまう。本人がこんなにヘタレだとは到底思えないんだけど。

 

「モテキ」ほど煩悩のかたまりで女の子に対して下手くそなコミュニケーションをしてしまって結果うまくいかない、というわけではなく、どちらかと言えば、過去によくわからないまま上手くいった恋愛があってそれをずっと引きずったあげく殻に閉じこもってしまう「秒速5センチメートル」に近いヘタレっぷり、というか。

 

そういえば、the pillowsの楽曲の中で僕が死ぬほど好きな"My Girl"というヘタレ曲があるんだけど、その曲を「秒速5センチメートル」の映像にのせて流すという動画があった。いろいろと問題がありそうなのでここには載せないけど。とりあえず"My Girl"だけ聴いてみてください。

 

 

 

さて、ここまでは#1を除いて爽やかでオシャレな感じのギターロックが続いてきたわけだけど、次の曲はずしんと重い。

 

#6"ストレンジカメレオン"。

 

Mr.Childrenの桜井和寿がカバーしていることもあり、おそらく彼らの楽曲の中では"ハイブリッドレインボウ"と並んでもっともよく知られているものだと思う。

 

この曲に、僕は何度も何度も救われた。the pillowsの音楽が、メッセージが、曲の隅々にまで込められた名曲である。

 

 

 


the pillows - ストレンジ カメレオン #22 - YouTube

 

 

 

君といるのが好きで あとはほとんど嫌いで

 

まわりの色に馴染まない 出来損ないのカメレオン

 

優しい歌を唄いたい 拍手は一人分でいいのさ

 

それは君のことだよ

 

メジャーになることを夢見て、ロックの歴史に自らの名を刻むことを夢見て、the pillowsはここまで音楽活動を続けてきた。

 

だが、親交のあるバンドが次々とブレイクする中、彼らの音楽がメジャーシーンに取り上げられることはなかった。

 

ちなみにMr.Childrenも彼らの同期にあたる。山中さわおはかつて、大ヒットを次々と飛ばし「ミスチル現象」を巻き起こした桜井和寿に対し、わだかまりを持つのを禁じ得なかったと言う。(そんな間柄だったからこそ、"ストレンジカメレオン"のカバーをMr.Childrenに託すというのがどれほど深い意味を持つことなのか、聴き手側として察することができるはずだ)

 

そんな彼らの決意表明。

 

「聴いてくれる人が1人でもいるのなら、俺たちは俺たちの音楽を、その人に届け続けるんだ」

 

たった1人でいい、自分のメッセージを受け取ってくれる人がいるのなら、自分がそのメッセージを発信し続ける意味はあるんじゃないだろか―。

 

僕がブログを書き続けていられるのは、the pillowsのこのメッセージのおかげなのだ。

 

 

 

さらに、彼らは続ける。

 

恐いモノ知らずで時代ははしゃぎまわり

 

僕と君のすごしたページは破り去られ

 

歴史には価値のない化石の一つとなるのさ

 

君と出会えてよかったな

 

Bye Bye 僕は Strange Chameleon

 

なんて切ない。なんて、潔い。

 

この部分は、普通に聴くなら、恋人との別れの場面だと思われるだろう。確かに、そんなふうに聴くこともできる。「歴史には価値のない化石」を、歴史の教科書には決して載らないちっぽけで大切な思い出を、僕たちはそれぞれ、自分の心の中に持っている。

 

だが、the pillowsというバンドが辿ってきたキャリアを考えるのであれば、この「歴史には価値のない化石」というのは、彼らの音楽のことだと推測できる。

 

オリジナリティを求め、時代に名を残すことに躍起になっていたそれまでの彼らは、例えて言うならThe BeatlesやThe Rolling Stones、Bob Dylan、Elvis Presley、Jimi Hendrixのような、ロックの歴史に燦然と輝き続けるビッグネームを目指していたのだと思う。

 

しかし、もういいんだ。#2でみたように、俺たちは俺たちが良いと思える音楽を、ロックの世界の片隅で鳴らし続けるんだ。

 

俺たちの音楽は、いつか忘れ去られてしまうだろう。いつかは「ロストマン」、忘れ去られた人として、歴史のかなたに消えてしまうだろう。

 

それでも、俺たちの歌を聴いてくれる君と出会えて、良かったよ。

 

…涙なしには、絶対に聴けない。

 

僕もいつかは死んでしまうけれども、彼らの音楽が確かに自分の胸に届いたことを、死ぬまで決して、忘れない。

 

本当にありがとう。ピロウズ。

 

 

 

この曲は、コード進行がとても印象的だ。

 

 曲の7割くらいの部分は、「ソラシド」と上がっていく進行か、「ドシラソ」と下がってくる進行かのどちらかでできている(I→IIm→IIIm→IVあるいはIV→IIIm→IIm→Iということ)。

 

あちらこちらと音を変えていくようなコード進行ではなく、じわりじわりと歌い上げるようなコード進行が、とても重厚な雰囲気を醸し出している。

 

特に間奏では、そのような「ソラシド」と「ドシラソ」の上下動を背景に、真鍋吉明の泣いているようなギターソロが格別素晴らしく響いているのがわかるだろう。

 

また、そのような「ソラシド」と「ドシラソ」の間に時折挟みこまれるセカンダリードミナントが、ピリッと効くカラシのような味を出している。

 

セカンダリードミナントというのは、ダイアトニックコード(その曲の基本となる7つのコード。I、IIm、IIIm、IV、V、VIm、VIIm(-5)のこと)以外で、その曲で使っても良いコードの種類のうちの一つ。セカンダリードミナントは、V7→Iというドミナントモーション(そのように進行するとすっきりした、解決した感じがするコード進行のこと)を他のダイアトニックコードにも当てはめたもので、VI7→IIm、VIIm7→IIIm、I7→IV、II7→V、III7→VImとなる(矢印左側がセカンダリードミナントコード、右側がその後に進行するダイアトニックコード。なお、セブンスはつかないこともある)。

 

この矢印の右側と左側が覚えられないよって人は、とりあえず、音は4つ下の音に進もうとする性質がある、と覚えるとよい。

 

まあ、用語はよくわからなくていいので、"ストレンジカメレオン"のサビの「周りの色に馴染まない/出来損ないのカメレオン」の部分を聴いてみよう。「馴染まない」のところで、少しねじれたような、不思議な感じがするのがわかるだろうか?そこから「出来損ない」の「ない」にいったところですっきりする。

 

この時「馴染まない」のところで使用しているのがセカンダリードミナントコード(ディグリーネームで書くとIII、コードネームではB)、「出来損ない」の「ない」のところが、ダイアトニックコードであるVIm(コードネームではEm)である。

 

それから、特徴的なのはサイドギターのGの押さえ方だ。

 

これについては、山中さわおの以下のようなコメントがある。 

 

オープンコードのGがたくさん出てくるんですけど、2弦の3フレットを押さえるクセがあるんですよ、僕。Cの"add9"を使うときに2弦の3フレットを押さえるんだけど、Cの"add9"からGにいくとき、2弦の3フレットをそのまま押さえてるんですね。

(コードブック「the pillows Best Collection」より)

 

(2弦3フレットというのは、ギターの押さえる場所のことです)

 

Cadd9というのは、この曲の中では例えばサビの頭のところの音だ。「君といるのが好きで」の「るの」のところで入ってくるコード。add9特有の、透明感のあるなんともいえないオシャレな感じがある。

 

その後、「後はほとんど嫌いで」の「とんど」のところでGに移るが、この時2弦の3フレットを押さえたままにしているらしい。

 

(と、ここまで書いて、山中さわおがいかに2弦3フレットの音(普通のチューニングなら「レ」の音)を愛しているかを示すもう1つの曲を思い出した。#2"Trip Dancer"のサビだ。この時、コードがくるくると変わっていくのにもかかわらず、ずっと2弦3フレットの音が響いている。)

 

やや専門的になるが、Gのコードの構成音はソとシとレなので、2弦3フレットを押さえてレの音を出したところで別段邪魔にならない。しかし、普段Gのコードを弾く時は2弦は開放であり、シの音が出ているはずだ。このシが消えてレが入るとなると、1弦はソ(オクターブ高)、2弦はレ(オクターブ高)、3弦はソ、4弦はレとなり、5弦でようやくシの音が出てくるので、コードを聴いた時のニュアンスはソとレが中心になる。長調か短調か(明るいか暗いか)を決める3度のシの音がぼやけて、どっちともいえない感じになる。

 

要するに、山中さわおの言うようにギターを弾くと、Gの音は非常に微妙な感じになるのだ。これは、"ストレンジカメレオン"の雰囲気にぴったりではないだろうか。

 

コードもそんなに難しくないので、ギターを触ったことのある人ならば、ぜひ挑戦して弾き語りをしてほしい。そんな名曲です。

 

 

 

#7"Swanky Street"は、再び爽やかなギターロックに回帰した曲。

 

Swankyとは「気取った、洒落た」という程度の意味だが、確かにその通り、add9やadd11、6(シックス)など、おしゃれな感じのするコードがたくさん使われている。

 

にもかかわらず「信号が何色でも/ブレーキなんか踏まない/壊れてもいいんだ」という歌詞のような熱いメッセージが込められているのが、この時期の彼らの音楽性を象徴している。

 

なお、歌詞カードでは上の部分の歌詞は「Swing god gun,I need it low demon」などと書き換えられている。これは、そのまま歌うと交通法規上問題があったからというのが真相のようだ。

 

#8"Suicide Diving"もこれまた過激な曲。名前の通り、自殺の曲だ。ここまで聴いてきた人なら、この'Please Mr.Lostman'というアルバムにはどうも穏やかでない曲がたくさん入っているのがわかるだろう。"STALKER"しかり、"Ice Pick"しかり…。

 

きっと、the pillowsはこの時期葛藤のまっただなかにあったのだろう。

 

サビの最後の「ファ、ファ、ファ」と歌うところで、その言葉通りF(ファ)の音が鳴っているのがおもしろい。 

 

#9"Girls Don't Cry"は、曲名からしてThe Cureの"Girls Don't Cry"をもじっている(どちらもドラムスの三連符が印象的なのが似ている)。こんなふうに、元ネタがなんなのか簡単にばらしてしまうというのも、彼らが自分たちの好きな音楽に素直になったことを示しているように思う。

 

僕はこの曲を聴いて山中さわおの女の子の趣味に共感してしまった。

 

一人ぼっちでかっこいいね
僕はずっとあなたに惹かれている

 

いいねえ…。僕もいつも一人でいるような女の子が好きだ。(と、こんなところで書いてもしかたないな)

 

糸井重里さんの「ボールのようなことば。」には、こんな篇がある。

 

「ひとりぼっちだなぁ」という感覚は、きりきりっと寒い冬の夜の、北極星の光のようなものじゃないのかなぁ。そのほのかな光が見つけられてないと、じぶんがどこにいるのかわからなくなっちゃう。

 

とても冷たい空気の中で、自分の体温のあたたかみや吐く息の白さを感じて、「自分は一人だなぁ」と実感している人の姿が思い浮かぶ、そんな言葉。

 

一人で自分と向き合って、あれこれ考えている人。男女問わず、僕はそういう人が好きだ。

 

「キスしてぎゅっと抱き締めたい」というサビのところのコード進行がどうしようもなくいい。IIm7→IIIm→IVmと、少しずつ上がって行くコード進行だ。ここのIVmは最も基本的なコード進行の場合だとIVが使われるんだけど、IVmは同主調変換といって強い切なさを醸し出すコードになっている。

 

 

 

そして最後の曲、#10"Please Mr.Lostman"。

 

さっき"ストレンジカメレオン"のところでちらっと書いたけれども、この「ロストマン」というのは「忘れられた人(もの、こと)」という意味だと思う。

 

英語的にこんな言い方はしないような気もするけど、普通に「迷っている人」と解釈するよりも、「忘れられた人」と解釈した方が、ずっとしっくりくるのだ。

 

それは、歴史に名を残せず忘れられていくであろう、彼ら自身のこと。

 

だからきっとこの曲は、彼ら自身に呼びかけている曲。

 

 

 


the pillows - Please Mr.Lostman #30 - YouTube

 

 

 

かっこいいなぁ。

 

AメロはFのキーで始まって、サビは一つ高いGに転調しているところなんて、とてもドラマチック。

 

「年を取って忘れられてく痩せた枯木に」のところは、ジャケットにあるメンバーの老いた姿(?)を思わせる。

 

「歌ってくれよ、忘れられる運命の音楽を」と、彼らは自分たちに語りかける。

 

そう語りかけなければ歌えないなんて、弱虫だ。表現者として、強さが足りない。そういう意見もあるかもしれない。

 

だが、自分のメッセージを信じて発信するというのは、とてつもなく勇気のいることだ。自分が天才であると心底信じられるような芸術家でないかぎり、気軽に自分を表現することなどできない。

 

だから、自分の歌で自分を勇気づけるということは、きっとありえる。実際僕も、ブログの文章を一番届けて勇気づけたい相手は、自分だったりする。

 

勇気を出せ、自分たちの音楽は絶対に誰かに必要とされているはずだから―。サビの一番最後で添えた「I need you so」というメッセージに、その想いは凝縮されている。

 

ここのコードだが、「I need you so」の前の「Please Mr.Lostman」のところの進行はIV→V。こう来たら普通、その後はV→Iと解決して終わりだ。しかしこの曲では、V→IVと元のIVのコードに戻っている(クラシックでは、このV→IVはルール違反の進行とされる)。

 

そうやってコードを行きつ戻りつする姿は、本当に自分たちの音楽をやっていてもいいのだろうか…というためらいにも受け取れる。

 

それでも、IV→V→IV→Iadd9と、最後はきちんと解決して、アウトロが流れて、曲は終わる。 最後のコードが鳴りやんだ後に残る余韻には、「迷っているけど、でもやるんだ。やってやるんだ」という決意がただよっている。

 

 

 

the pillowsが渾身のメッセージを込めた「音楽業界への遺書」とも言われるこのアルバム、'Please Mr.Lostman'はいかがだっただろうか。

 

彼らと同じように、世界の片隅で、自分のメッセージを受け止めてくれる人に向けて何かを発信し続けている人には、絶対に聴いてほしい。

 

世の中に広く認められなくてもいい、たった1人の人にメッセージを届けられたらいい。

 

このアルバムを聴くたびに、僕はそんなふうに背中を押されるのである。

 

 

 

 

Please Mr.Lostman

Please Mr.Lostman