先月発売されていた「広告ビジネス 次の10年」(著者:横山隆治、榮枝洋文)を読んだ。
著者の一人、横山隆治氏は、広告業界の人間にとっては「業界人間ベム」でもおなじみの方だろう。
広告代理店のぺーぺーとしてこの本の感想を一言で言うと、半端ない危機感とワクワク感を同時に抱かせてくれる本だ、というところだろうか。
広告に携わるすべての人々に読んでもらいたい一冊だが、特に、これから広告代理店を志す人には、厳しい現実を知るために、そしてそれを乗り越える覚悟を決めるために、読んでもらいたいと思う。
この本では、現在、広告代理店は自らの仕事を「再定義」しなければならない時代にきている、と説く。
もともと、広告代理店の起源は、新聞広告枠の販売業だった。クリエイティブやプランニングといった仕事は、すべてその「広告枠の販売」という、莫大なマージンを得られるビジネスにつなげるために出現してきたものだ。
「広告枠の販売」では、主導権は売り手側、つまりメディアの側にある。マスメディアがマスメディアとして機能し、枠が有限かつ貴重なものであった時代には、広告主は決められた選択肢の中から代理店を通じて広告枠を購入するしかなかった(もちろん今でも、マスメディアの枠は貴重なものである)。
しかし、インターネットの登場により、インターネット上に無数のメディアとそれに伴う無限ともいえる数の広告枠が出現した。
そして、リーマン・ショック後に金融業界から流れ込んできた金融工学のエンジニアたちによって作られたRTB(Real Time Bidding)やDSP(Demand Side Platform)といった仕組みの登場により、広告枠の主導権はメディアから広告主に移ったのだ。
(RTBは入札によって最適な人に最適なタイミングや価格で広告を配信する仕組み、DSPは広告主が自分たちでターゲットを設定しそれに応じた広告を発注・配信できる仕組みである。これ以上は読者が各自で勉強してください。インターネット広告の歴史については、アドテクノロジーの歴史(1)【1994年以降のWEB広告史】から順に読んでいくとよいです。)
広告枠の主導権が広告主に移ると、それまで自分たちを介してしか広告枠を発注できなかった広告代理店の存在意義は限りなく薄くなる。
したがって、広告代理店は自らのビジネスを再定義しなければならない。
ビジネスを再定義する過程で、8割の広告マンが不要になる。いわく、
「広告主の前でお天気と株価の話しかできない幹部」
「メディアの事情通というだけのメディア担当」
「広告主が素人だったので通用していた御用聞き営業マン」
「15秒と30秒の広告しか作れないCM職人」
「自ら分析できないプランナー」
などなど…。
耳に痛い話だと思われる方も多いのではないだろうか。
広告代理店がビジネスを再定義する方向性として筆者が述べているのが、サブタイトルにもある「データを制する」ということである。
それでは、広告代理店はこれから具体的にどんなビジネスを展開していけばよいのか?
そして、そこで働く僕たちはどのようなスキルを身につけるべきなのか?
それに関しては、ぜひ本書を購入して内容を読んでみてほしい。
現在テレビの世界を勉強させてもらっている僕としては、今すぐテレビ業界においても広告枠売買の主導権が広告主に移行するとは思わないが、今後データマーケティングがどの程度テレビの世界を侵食していくのかについては、興味深く(そして注意深く)見守っていきたい所存である。
広告に携わる人が、自分自身や自身の仕事の未来を考えるために、必読の一冊。
なお、本書に記載されている「オムニコムとピュブリシスの合併」は、2014年5月9日に合併解消が発表されている(米 オムニコムと仏 ピュブリシス、合併解消を発表 - AdverTimes)。この点にだけは注意する必要があるだろう。
ちなみに著者の横山氏もそのことについてコメントしている(米オムニコムと仏ピュブリシス、合併解消からの示唆/『広告ビジネス次の10年』 - MarkeZine)。
※下記もぜひご参照ください。
「広告ビジネス 次の10年」 補足したいこと その1 - 業界人間ベム