Rail or Fly

レールに乗るのか、飛び降りるのか、迷っているきみに届けたい。

「市場価値の高いスキルだけが身に付く仕事」なんてありえない。

昨日 インターンシップの説明会に、社員として参加して思ったこと。 という記事を書いたが、それ以外でも、ここ最近は大学生の方とお話しする機会が多い。

 

その中で少し気になるのは、「英語は身に付きますか?」とか、「転職に必要なスキルは学べる環境ですか?」といった質問をされることが多いことだ。

 

もちろんこれは、時代の流れのせいでもあるのだろう。一つの企業に勤めあげることが美徳だと捉えている学生は今の時代あまりいないだろうし、逆に「どこに放り出されても通用する力を身に付けたい」と考えている学生も多いだろう。

 

書店のビジネス書の棚を見ていると、一昔前に大前研一氏が唱えていた「英語、IT、会計」に関する本は言わずもがな、昨今では「統計学の力」といったものも、「市場価値の高いスキル」としてカウントされている。

 

 

統計学が最強の学問である

統計学が最強の学問である

 

 

 

ただ、「どんな会社でも通用する、市場価値の高いスキル」だけを求めているとしたら、それはあなたが間違っている。

 

なぜなら、仕事というのはそう簡単に「美味しい部分」と「不味い部分」を切り分けられるものではないからだ。

 

 

 

僕はテレビの部署にいて毎日視聴率をチェックしている。

 

視聴率というのは一定数を上回ったサンプル数から取られている。その数字が出てきたわけを(相関を見たり、サンプルの強度を考えたりして)あれこれ推測して、じゃあ次回はこのテレビ局を使おうとか、今回は深夜にCMを流してみようとか考えるわけである。

 

これも初歩的ではあるが、統計学を使っていることになるだろう。

 

だが実際には、机上で進めた推論をそのまま現実に落とし込めるわけではまったくない。

 

例えば、そうやってプランしたものに対して、テレビ局からは「どういった時間帯や番組にCMを流すか」という情報が来るわけだが、全国キャンペーンの場合、100をゆうに超える局から次々とそういった情報がもたらされてくる。

 

どの局からは情報が来ていて、どこからは来ていないのか。どの局の情報は質が良くて(つまりはゴールデンタイムとか人気のある番組とかにCMを流してくれて)、どの局のはよろしくないのか。そういったことを逐一目視で確認しなければならない。

 

非常に手間のかかる、それでいて無味乾燥な作業だ。

 

しかし、こういった地道な作業をきっちりとこなして初めて、最初に組んだプランが計画通りに実施されるのである。

 

「僕はメディアプランをするためにこの会社に入ったのであって、どこの局の情報が来ていないかチェックする雑用みたいな仕事はやりたくありません!」と言っても、そもそもその「下らない仕事」ができなければ、自分の設計したプランニングという理想論を現実世界に着地させることはできないのだ。

 

 

 

同じことは、僕のインドでのインターン経験にも言える。

 

インド人100%の会社でインターンを1年弱やって、得たものは英語力と営業力、それから生命力です!などと言えば、いかにも「市場価値の高いスキルが身に付いた」ように聞こえる(生命力が市場価値が高いかどうかは知らないが)。

 

だが、インドで僕がやっていたことと言えば、ひたすらチェック、チェック、チェックだった。

 

引っ越し先のアパートに家具が時間通り搬入されているか電話してチェック。水漏れがないか、電球が切れていないか目視でチェック。クライアントに同行する不動産業者が時間通りに現れるか、3時間前から1時間おきに電話してチェック。

 

めちゃくちゃ地味な作業である。

 

しかし、その地味な作業があってはじめて、クライアントに納得してもらえるサービスが提供できる。「俺の役目は日本人駐在員とインドをつなぐコミュニケーターだから、家具が来ているかどうかなんて知らないぜ」などとのたまうものなら、たちまちインドと日本との常識の違いを思い知り(つまり何のチェックもせずいようものなら家具はいつまでたっても届かないことを知り)、クライアントから大目玉を食らうだろう。

 

かように、「市場価値の高いスキルだけが身に付く仕事」など、ありはしないのだ。

 

 

 

今の日本の就職活動では、自分のやりたいことや身に付けたい力をきちんと語れなければ、選考に残れないシステムになっている。

 

その一方で、会社に入ってから与えられる仕事というのは、今も昔も変わらず「その内容につべこべ言わず、任されたものを精一杯やる」といった性質を持つものだ。

 

そこで新卒が「市場価値の高いスキルが身に付く仕事がしたいんです!こんな雑用はやりたくないんです」と言っても、「ハァ?」と言われるのがオチだ。

 

そもそも、どのような仕事であれ、「市場価値の高いスキルだけが身に付く仕事」というのはあり得ない。どんなにかっこよく見える仕事であっても、その95%は、泥臭く、地味な作業なのだ。

 

「どこででも生き残れるスキルを身に付けたい」と考えることは、決して悪いことではない。

 

ただし、世の中の仕事というのはほとんどが無味乾燥なものであって、それを食わず嫌いするのではなく、そこから何が学べるかを考えるということが、社会人に求められる資質であることは、心しておくことが必要だと思う。